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人間発見:為替取引を奏でる(5)日本経済新聞(夕刊);1996年(平成8年)7月26日

市場の内部構造のモデル化に挑戦。
楽典や言語学ひもとくが試行錯誤


私の取引モデルでは、ドル買いの良いシグナルは今月後半と12月後半に出そうです。
円安は来年から2000年まで周期的に続き、少なくとも1ドル=125円をつけると予想します。
 
私の相場の見方は、相場とはファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)だけで動くのではなく、市場そのものの内部要因、内部構造で動くというものです。
内部構造がわからないと、どうしようもない。
それをどう数値的に表現するかがポイントで、私はわけのわからない世界を表現出来るようなものでないと、表現出来ないだろうと考えました。
 
最初は、その構造は人間の脳とか心のようなものではないかと考えた。
心の中で起こることはよくよく考えるとわからない。
言葉をしゃべるのもどうしてかわからない。
これらを表記するものがその構造ではないのか、それは音楽や言語に近いものではないかと。
 
天才はパッとメロディーを思い浮かべる。
だけど、どうしてそのメロディーが出てきたかはわからない。
相場もそうではないか。
どうしてそう決まったかはだれもよくわからない。
簡単に言うと、ベートーベンのモデルが出来れば、ベートーベンみたいな曲が出来る。
同様に円ドルのモデルが出来れば、明日の円ドル相場は書ける。

そう考えて、音楽の文法である楽典を研究しました。 和声学です。半年くらいやりました。
 
言語もチョムスキーの構造言語学をひもときました。
言語には表層構造と深層構造があり、相場も同様に表層と深層とに分かれ、この目に見えない深層構造をモデル化すれば問題は解決できるはずと。
しかし結局、どれも試行錯誤でうまくいかなかったですね。
 
今は、統計的なモデルを使っている。
市場の予測に比較的向いているのは、周期性であり、波動の数値モデル化だと思っています。
その究極の演算方式は、ランダム理論で、市場はメチャクチャに動くというもの。
メチャクチャの中で、メチャクチャでない部分を取り出すのです。

田中が主宰するタナカCRMは独自のテクニカル分析リポートを週二回オランダから顧客にファクスで届ける。チャートの分析に加え、自動的に売買シグナルが出るのが特徴。

私は、市場は基本的に対称形だと思っています。
特に予測にそれが当てはまる。鏡に映ったものをもう一度引っ繰り返す二次対称。
対称の中心点を確定できればいい。
この中心点は神のみぞ知るだが、大体の推測がつくようになってきました。
 
ただ、94年は難しい年で、私のモデルもあいまいなシグナルを出したりもしました。
しかし、95年以降はまた当たるようになっています。

私自身、やりたいことは全部やった気がします。
もし成功すればという話はあまりしたくない。
でも、もしもそうなれば、市場での仕事は続けないと思う。
続けていれば必ず失うことがあります。
 
一番いいのはもうけたらやめることです。
オーケストラを辞めたころは、音楽の世界にすぐに戻れると思っていました。
簡単に勝てると踏んでいたからです。 まだ億万長者でないので、そうもいきませんが。
 
(聞き手は編集委員藤井良広)

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